空の色
三平 訓子文芸社
大塩平八郎
三谷 秀治新日本出版社
読んでいくうちに興味をかきたてられたので、もっと詳しい平八郎の伝記を精力的に書いていただきたい。
釈迦と維摩―小説維摩経
三田 誠広作品社
仏教書としての維摩経を「知の巨人」中村元による日本語訳よりも読みやすく訳していることが最大の美点だと思います。実際、仏教に小乗や大乗があることさえもあやふやだった無知な私が読んでも、小説として十分理解ができました。そうした読者にも抵抗が少ないように、小説家の知恵がめぐらされた作品と言えます。
三田氏の著作には、般若心経や法華経などの仏教だけではなく、聖書やアインシュタインの理論への入門書もあります。このように宗教という狭い枠内ではなく「真理」や「宇宙」といった普遍的なテーマへの理解を深めるために積み重ねた知識を背景としているためか、この作品には単に経典を読みやすく書いたという以上のものがあるように感じられます。もちろん、原典自体がそうした優れた拡張性を持ったであることは間違いないでしょう。
秋霖譜―森有礼とその妻
森本 貞子東京書籍
この本を手に取った時、結構なページ数にたじろいだが、最初の数ページを読むと気分は明治になっていた。
著者は、米国の大学に保管されているお雇い外国人の娘の日記から、森家関係者のアルバム、昭和58年に発見された陳述書まで、およそ現存する資料を精力的に調査して、卿から大臣に呼び名を変えた初代の文部大臣森有礼暗殺という歴史的事件のグレーゾーンをうずめるジグゾーパズルをほぼ完成させている。その調査力には驚かされるが、本書は小説仕立てになっており、細部にわたるしっかりした時代考証で、その時代を自らの信念に拠って生きた人々が活写されている。ページを読み進むと、登場人物とこれまでのすべての事柄が、将棋の終局にいたるような必然でもって森大臣暗殺とその妻常の離婚へ向かって流れていく。特に、伊藤博文暗殺未遂事件といわれている「静岡事件」で起訴され、刑に服することになる藪重雄が苦悩する部分からは一気に読み終えてしまった。
青の歴史
ミシェル・パストゥロー筑摩書房
フランスを中心とするヨーロッパにおける「青」の歴史を辿った労作である。すごい情報量だ。
先ず筆者は、色について研究する際注意すべきこと、色の研究を取り巻く問題点を、序論で明確に指摘する。
こうしたしっかりとした問題意識の上に書かれた本書では、青の歴史を絵画だけでなく布の染色、紋章、ステンドグラス、
染料の生産と輸入、製造法、宗教改革が与えた影響、などあらゆる方面から考察している。
青が、ギリシア・ローマでは「蛮族」つまりケルト人、ゲルマン人の色として低い地位にあったのに、
中世にかけて聖母マリアの衣服の色になったり、フランス王家の紋章に使われたりして地位を上げ、
高い地位を占めていた赤と競合する様子を多方面から述べていく。そして、宗教改革により厳格なプロテスタントにとって、
黒が重要な色となるなか青もその列に加えられ、画家にも使用され、近現代において人々が一番好きな色になるまでを明晰に描く。
このように古代から現代(国連、EUの旗やブルージーンズまで)を扱っているが、特に中世期の記述は詳しく、
赤の染色職人と青の染色職人が競合する様子や、色は光(神のもの)か粒子に過ぎないか?といった聖職者達の議論は面白い。
また、フランス国旗の青、白、赤は「自由、平等、博愛」だが、実際はそう単純なものではなかったこともわかり興味深かった。
豊富な傍注と参考文献が付き、論文としてもしっかり書かれている。訳文は所々読みにくいが、原文の仏語が、
いつまでもピリオドが来ないような文章が多いので致し方ないだろう。巻頭にカラー図版つき。
ただ本文中の図版は白黒なので色がわからず、採算が合わず仕方ないのだとは思うが残念であった。